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2021年版、『編集者』をアップグレードする挑戦

2019年、2020年、そして2021年
ぼくの編集者観は、年を経るごとに変化を続けている。

数年前までのぼくは、新人マンガ家に知識や技術を教えることが編集者の役割だと考えてきた。だが、誰かに教えてもらうより、自分で課題に気づき、自分で学びたいと思って、行動するほうが圧倒的に成長は早い。

『ドラゴン桜2』で「教師は、教える人から、寄り添う人にならなくてはいけない」と主張しているが、編集者も全く同じだ。ティーチングから、ファシリテーターへと、その役割を変えるべきと気づき、自分の癖や習慣をアンラーンしようとしている。

それ故、2019年から、新人マンガ家との向き合い方を変えてみた。

いつの時代も、切磋琢磨できる「コミュニティ」から新しいカルチャーは生まれてきた。マンガの世界では、手塚治虫、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫が住んでいたトキワ荘が有名だが、天才が一か所に偶然集まるなんてありえない。コミュニティが天才たちを育んだのだ。

ぼくは「令和版トキワ荘」をコルクにつくりたいと考えた。

ぼくから教わるのではなく、新人マンガ家同士がお互いに影響を受けあい、一緒に高みを目指していけるようなコミュニティだ。そして、ぼくの役割は、ファシリテーターとして、そのコミュニティを整えることだ。

まずは、新人マンガ家たちを同じFacebookグループに入ってもらって、途中の作品を各自でフィードバックしあえるようにした(今月から、slackに移行した)。僕がやるのは、目標や計画を立てる大切さを話すことで、どんな目標や計画がいいのかは、マンガ家同士で経験をシェアすることを促した。さらには、飲み会や勉強会、合宿を定期的に開催した。

すると、みんなが見違えるようなマンガを描くようになってきた。「いいマンガとは何か?」を語り合える仲間ができたことで、お互いの視座が高まり、みんなが自分で自分を成長させた。

そして、2020年。
このコミュニティを成長させるため、新しい挑戦をはじめた。

それが『コルクスタジオ』だ。

コルクスタジオでは、コルクに所属する新人マンガ家たちが、様々なクリエーターと「チーム」になりながら、作品づくりをしていく。

これまでのマンガ制作は、マンガ家ひとりで、ストーリーを考え、キャラクターを考え、絵も描いてと、何役もの役目を負っていた。手伝う人たちはアシスタントであり、マンガ家と対等な立場ではなく、弟子みたいな存在だった。これは、なんでもできるスーパーマンのような人間しか、マンガ家になれない状態を意味する。

また、マンガ家が何役も務められたとしても、ひとりでは創造性に限界がある。ぼくたちは、過去に体得した知識や経験から、「思考の枠組み」を作り出す。枠組みが強固になると、無意識に特定の思考パターンが起動するようになり、自由な発想が徐々に難しくなる。そのため、外部から新しい刺激をもらうことが、創造性を育む上で不可欠。

どのようにして、集まった漫画家たちをチームにするのか。
それに僕は挑戦した。

チームで創造性を保っていると言えば、いつもピクサーを思い浮かべる。

ピクサーのすごいところは、個人の才能に依存せずに、チームによって質の高い作品を再現性をもって作り出していることだ。ピクサーは、作品ごとに監督やスタッフが交代するが、どの作品もクオリティは一貫して非常に高い。そして、没個性ではない。個性的なのに、チームで作っている。同時にピクサーらしさもある。

ピクサーはCG技術開発から会社の歴史がはじまっている。そこに脚本家や音楽家など、様々な領域のクリエーターが集まって、長編アニメーションを作るようになった。

創世記の頃、クリエイターたちは大部屋で、まるでキャンプを一緒に過ごしているように話し合い、沢山の驚くようなアイディアが生まれたらしい。ピクサー創世記のメンバーは、その経験から、信頼しあったクリエイター同士の「コラボレーション」の大切さを学んだと言う。ピクサーの人たちが書いた本を読むと、コラボを生み出すための制度設計や組織風土づくりに、かなりの力を入れていることがよくわかる。

ピクサーと日本のマンガ家の実力はそんなにないと思っていたが、実は大きな差があることに、今頃になって僕は気づいた。

一人でやることを、大人数でやることには大きな差がある。

難易度が全く違う。チームで作って再現性を保つのは、難易度が一気に上がる。一人で作品を生み出すだけでも十分難しいのに、大人数になるとどれだけの難しさなのかは、イメージがわかない。僕はやっと圧倒的強者と自分の実力差を気づけたところだ。

今年、僕がコルクスタジオで挑戦するのは、マンガ家がチームで活躍すること。そして、そのチームが外部の違うジャンルのクリエイターとコラボをしていくことだ。

ネットの中ではジャンルが溶けていく。漫画家同士が、チームになるだけだと足りない。マンガ家も、マンガの領域だけでなく、様々な領域のクリエーターとコラボすることで、思考の枠組みを超え、自分では創造もできなかったアウトプットを生み出せるのではないか?

マンガではないが、「小説を原作に音楽を作り出す」をコンセプトにしている『YOASOBI』の活動を見ていると、コラボの価値がよくわかる。

YOASOBIのAyaseさんが、インタビュー記事で話ていた内容を抜粋する。

 "YOASOBIの曲を作るときにいつも考えているのは、ただ小説を説明するだけの楽曲にならないようにすること。小説を読むことで音楽に深みが出たり、音楽を聴くことで小説の世界観が鮮やかになったり、行き来することでわかる楽しみを作り出したいんです。それぞれがひとつの作品として成り立っていて、それが合体することでどんどん大きな作品になっていくイメージ。いち読者としての僕の主観や主人公の感情も入れながら、小説と同じテンポで進んでいく音作りを意識しています。"

(引用元)YOASOBI(ヨアソビ)が「たぶん」原作者と初対面 小説と音楽、行き来して作品が大きくなっていく

ぼくも『タマリバラボ』というNHKラジオの企画で、YOASOBIのふたりと対談させてもらう機会があったが、違う人が作った作品を楽曲に落とし込むコラボを通じて、作曲者としての幅に広がりが出ていることを語っていた。

ぼくらも「マンガ家 × ●●●」といったコラボを積極的にやっていきたい。

小説家、脚本家、ミュージシャン、動画クリエーターなど、様々な領域のクリエーターと化学反応を生んでいきたい。

まさに鈴木おさむさんが脚本を描き、コルクスタジオのマンガ家のしたら領が描いた『ティラノ部長』などは、その試みの始まりだ。

世界観の時代は、"握手のできる"クリエーターが生き残る』というnoteでも書いたが、チームとして世界観を共有することができれば、その表現方法が増えることで、作品の世界観に膨らみがでる。コラボは、多くの人の心を揺さぶる強いコンテンツをつくる手段でもある。

そう考えると、ぼくの役割は、クリエイターとクリエイターのマッチングの編集と、そのプロジェクトがチームとして進んでいけるようにファシリテーションすることになる。

言うのは簡単だが、実現させるのは難しい。

サービス開発の現場で、エンジニアとデザイナーの意思疎通がうまくいかず、スムーズに開発が進まないケースをよく耳にする。これを防ぐには、お互いが大切にしているものを理解し、目線を合わせ、共通言語を持つ必要がある。同様のことが、クリエーター同士のコラボでも当てはまる。

かなり高いレベルの「チームビルディング」が求められる。

「コミュニティづくり」「チームビルディング」

この2つの能力を極めることが、「編集者」という仕事のアップグレードに繋がるはずだ。

20代頃のぼくが、今の働き方を見たら、きっと首をかしげるだろう。作品作りをしていない。これは編集者の仕事なのか?…と。だが、チームで創造性を生みだす仕組みを創ることが、長い目で見た時に、いい作品を世界に沢山届けるための一番の近道になると、ぼくは考えている。

2021年、『コルクスタジオ』から、どんなコラボが誕生するのか?

それを楽しみにしてもらえると嬉しいし、noteではプロジェクトで得た学びや気づきをおすそ分けしていく。

また、新しい取り組みとして、ぼくの持っている知識をオープンにしていく取り組みも始めた。

ぼくの考えに対する反論も含めて、知識が検索可能になった方がいい。そんな風に考えて、ぼくの知識を、Youtubeにアップしていくことにした。

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