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相手を面白がるには”対話”が必要。 篠原信さんに聞く、メンバーを能動的にする接し方

人を育てるのには難しい。相手のためを思ったアドバイスが、かえって相手の意欲を削いでしまうこともあるし、最悪の場合、指示待ち人間にしてしまう可能性もある。

どうやったら相手が主体的に考え、行動するよう促すことができるのか?

経営者としてはもちろん、新人マンガ家を育てる編集者としても、常々考えていることだが、自分の行動を改めようと気づかされる本と出会った。タイトルは、まさにぼくが知りたいことそのままで『自分の頭で考えて動く部下の育て方』だ。

著者は、農業研究者の篠原信さん。篠原さんの話をもっと詳しく聞きたいと思い、コルクラボにゲストできてもらった。その対談の一部をコルクラボのメンバーが記事にしてくれたので、共有します。

<記事の書き手 = みよよ、編集 = 井手桂司

篠原信さん
国立研究開発法人「農業・食品産業技術総合研究機構」上級研究員。「有機質肥料活用型養液栽培研究会」会長。京都大学農学部卒。農学博士。高校を卒業後、2年がかりで京都大学に合格。大学生時代から10年間学習塾を主宰。約100人の生徒を育てた。本業では、水耕栽培(養液栽培)では不可能とされていた有機質肥料の使用を可能にする栽培技術を研究、開発。これに派生して、やはりそれまで不可能だった有機物由来の無機肥料製造技術や、土壌を人工的に創出する技術を開発。「世界でも例を見ない」技術であることから、「2012年度農林水産研究成果10大トピックス」を受賞。

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間違いを言ってはいけない呪いをどう解くか?

佐渡島:
在宅勤務でも、能動的に動ける人とそうでない人の差は、どこにあると思いますか?

篠原さん:
根本的には、本人が仕事が楽しいと思えるかどうかだと思います。上司の命令で仕事をやっているという感覚から抜け出せるか次第ではないでしょうか。

佐渡島:
でも、最初からそういう風に仕事を楽しめる人って、多くはないですよね。大体、どれくらいの期間があれば、そういう状態に変われるものだと、篠原さんは考えていますか?

篠原さん:
私は、1か月ぐらいあれば、自分から「こうした方がいい」と意見を言えて、主体的に働ける状況になれると思います。

佐渡島:
1ヶ月ですか!?

少なくても半年くらいはかかると思っていたので、驚きです!

篠原さん:
正確にいうと、「間違った意見を言ってはいけないのでは?」という呪いを解除するのが1か月ですね。

多くの人は、間違ったことを上司に言ってはならないという呪いにかかっています。でも、上司である自分が絶対の正解を持っているわけではありません。仮に、ピントがずれた発言だったとしても、「面白い意見を言うね」という風に面白がってると、相手は発言を恐れなくなります。

私はどんなことを言っても、面白がります。一見、間違っているように思える意見に対しても、それをヒントにアイデアを膨らませていきます。そういう関わり方をしていると、徐々に相手の呪いが消えていきます。部下やメンバーに主体的に動いてほしいと考えるリーダーは、まずは呪いを解くことに注力することを薦めます。

面白がれる人は「対話」の姿勢で物事をみている。

佐渡島:
相手を面白がることについて、もう少し詳しく聞かせてください。

そもそも、編集者にとって「相手を面白がる力」は重要です。ぼくは、まだ世間に埋もれている才能を見つけて、「あなたは作家として作品を書いた方がいい」と働きかけるわけですけど、それって作家の才能を面白がることからはじまるんですよね。社員にしても、自分の会社の社員にする時点で、相手に魅力を感じて、面白がっているわけです。

だけど、ビジネスとして関わっていくと、面白いだけで成立するのが難しくなってくる。作家には、ある程度、売れるものを作ってもらう必要があるし、社員であれば利益に貢献してもらう必要がある。面白がっている場合じゃないような瞬間もあったりして、相手を面白がり続けるのは意外と難しいなとも感じています。篠原さんは、どういう風に考えますか?

篠原さん:
そうですね。それでも、私はどんな時でも面白がるようにしていますね。物事がうまくいかないのも「なんでうまくいかないんだろう?」と面白がったり 。

結局、面白がるとは、状況がうまくいってるから面白がれるのではなく、どんな時でも面白がれる「心の姿勢」だと思います。

例えば、私は研究で学会によく行きますが、どんな研究でも面白がるようにしています。それは、別に無理に面白がろうとしているわけではなくて、研究者と対話をするなかで、お互いが気づいていなかった何かを発見しようという気構えで臨んでいるからです。「この研究は、こっちの方向で進めたら、もっと面白くなるかも」とお互いが思える展開になれば、相手にとっても自分にとっても有意義ですよね。

実は、相手を面白がるために、「対話」はものすごく重要だと思います。

私は『ひらめかない人のためのイノベーションの技法』という本で、ソクラテスの産婆術について書きました。ソクラテスは年寄りだったにも関わらず、物知り顔に説教するようなことはなく、むしろ若者から教えてもらいたがっていました。それで、若者に対して「それはどういうこと?」「ほう! それは興味深いね。こういう事実と組み合わせて考えたら、どう思う?」などと質問を重ねていくんです。

そうして、どんどん思考を深掘りしていくうち、若者はそれまで思ってもみなかったようなアイディア、思索の深遠さに自ら感動します。ソクラテスも知らない。若者も知らない。無知な者同士が、問いを重ねることで新たな知を発見する。これがソクラテスが得意とした産婆術です。ソクラテスといえば、「無知の知」という言葉が有名ですが、彼の功績の最たるものは産婆術の発見にあるのではないかと私は思います。

佐渡島:
ぼくも『ひらめかない人のためのイノベーションの技法』を読ませてもらって、編集者のあり方とはまさにこれだなと思いました。

篠原さん:
おそらく、作家自身も自分で気付いてない強みや面白さをお持ちですよね。なので、編集者の仕事は、作家と対話をしながら、作家自身が自分の才能に気づき、その才能を作家本人が自分の意思で伸ばしていくことを促すのがいいのかなと感じました。

結果ではなく「工夫」を褒めることが大切

佐渡島:
相手に自分の才能に気づいてもらうという点で、難しさを感じるのは、ぼくが「あなたの才能はここかもしれない」と褒めたとするじゃないですか。そうすると、相手が、また褒められようと思って、褒められるためのアウトプットを出してくることがあるんですよ。なんかそれは違うなと感じるのですが、篠原さんはどう思いますか?

篠原さん:
褒められると、また褒めてもらおうと思って、行動してしまうことは起きがちですよね。でもそうすると、本当の意味での主体性が育ちません。

私は、そのループに陥らないように、「結果」ではなく「工夫」を面白がるようにしています。

工夫がなかったらどんなによい結果が出ても面白がらないけど、結果がどんなに悪い場合でも工夫している限りは面白がります。工夫したことを面白がっていると、その人はずっと工夫をし続けます。前回は、この工夫で驚かせたら、同じ工夫では驚かないことは、はっきりしていますからね。そうして、工夫し続ける人は成功する道をいつか見つけると思います。

佐渡島:
今のを聞いて思ったのが何を結果とするかが難しいですね。僕は売り上げは褒めません。作品の売り上げやバズるかどうかは大して重要視しない。出てきた作品を褒めます。その作品を「結果」とみるか「工夫」とみるかですね。

篠原さん:
なかなか難しいところですね。

ちなみに、私の弟は陶芸家です。彼に対して「今回の作品、すごいね」という伝え方はしません。もっと細かい工夫について伝えます。例えば、「この間まで作品に出てなかった青色が出てるけどこれはどうやって出したの?」とか。そうすると本人も自分の工夫を意識できて、その意識化が「じゃあ、今度はこの青色が作品の前面に出るような工夫をしよう」と次の工夫へと繋がります。

佐渡島:
なるほど。ぼくは新人作家の作品に対して、直したほうがいいところばかり伝えてしまっているのかもしれないですね。新人作家の工夫に気づけるようになるといいのか。

篠原さん:
そうですね。とはいえ、私も提出された論文には、容赦なく沢山の赤入れをしています。こには容赦を入れる必要がないと思っているからです。ただ。普段の研究で、朝10分ぐらいディスカッションするときには「新しい工夫 」に驚くようにしています。

佐渡島:
その話でいうと、途中段階のシェアができない相手にどう向き合うかが一番難しいですね。どういう苦労や困難を抱えていたかを把握していれば、それを乗り越えるためにどんな工夫をしたのかがわかりますし、工夫を自然と褒める気持ちが湧いてきます。でも、その途中の状態をシェアする人って、あんまりいないですよね。

篠原さん:
そうなんですよ。だから、まとまってからデータ出すのではなく、普段から小出しに質問してくれと促しています。

そういう意味では「この人には、何を言っても大概大丈夫だな」という関係を、最初の1ヶ月の付きあいでみっちり作っておくようにしとかないと、後々うまいこといかないことが多いですね。

佐渡島:
なるほど。結局は、間違いを言ってはいけない呪いをどう解くかが一番重要ということですね。

(終わり)

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『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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