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食で関係性を変える。そんな新連載がスタート

コルクスタジオの新作『ロケ弁の女王』が、LINEマンガで連載開始した。

チームによって質の高い作品を再現性をもって作り出す。WEBTOON時代に適応したマンガの表現方法で、時代を超えて残る作品を届ける。こうしたビジョンを、コルクスタジオでは掲げている。

とはいえ、言うは易しで、そもそもが強烈な個性や価値観を持っているクリエイター同士がチームになるのは一筋縄ではいかない。

以前に『チームの思考力を高める、3つの「そろえる」とは?』というnoteにも書いたが、マンガを作る際の視点は人によってバラバラだ。キャラクターが魅力的か、設定が面白いか、メッセージ性はあるか、絵に魅力はあるか、カタルシスが得られるか。こんな風に色々なこだわり方が存在する。

作品に触れる際の目をそろえ、キャッチした情報への解釈をそろえ、呼吸をそろえて行動する。これらの「そろえる」ができないと、チームとしての強みを発揮し続けることは難しい。コルクスタジオを立ち上げてからの数年、この「そろえる」をしっかりやるために、かなりの時間を割いてきた。

そのため、コルクスタジオが発表した作品の数はかなり少ない。WEBTOONの市場が急速に拡大し、年間に数十作品もの作品を発表しているスタジオがあるなかで、ぼくらのスピードは亀のような歩みに見えるかもしれない。

だが、ぼくらは時流に乗るのではなく、自らが時流を作っていきたい。

現在のWEBTOONを見ると、「異世界転生もの」や「悪役令嬢もの」をはじめ、ライトノベルで人気となっていたジャンルが目立っている。主人公が無双の能力を持っていたり、自分を裏切った人たちを見返したりして、スカッとするような快感を読者が感じられる作品が多い。

だが、マンガの歴史において、『巨人の星』や『あしたのジョー』が登場したことで、子ども向けと思われていたマンガを大人も読むようになったように、WEBTOONにおいてもジャンルや読者層は拡張していくだろう。

その足掛かりとなるような作品を作りたい。現在はWEBTOONを読んでいない人たちが、「こういう作品を待っていた!」と言ってくれるような作品を届けたい。そうした想いが常にある。

新連載の『ロケ弁の女王』は、マンガの王道のジャンルである「グルメもの」と「職業もの」の掛け合わせだ。

グルメものといえば、『美味しんぼ』や『孤独のグルメ』など有名作品が多数存在するが、カテゴリーの広がりにも目を見張るものがある。例えば、刑務所に収監されている受刑者たちによって語られる『極道めし』。モンスターを料理しながらダンジョンを踏破していく『ダンジョン飯』。「この発想はなかった」と驚かされる作品が次々と登場するジャンルだ。

やはり、食とは人間が生きるうえで欠かせないものであり、精神衛生においても大切なものだ。どんなに辛いことがあっても、美味しいものを食べると気持ちが和むと言ったように、人の感情を揺さぶる不思議な力がある。だからこそ、古今東西における様々な作品で食が描かれてきたのだろう。

コルクスタジオでも「グルメもの」をやってみたいと考えるなかで、『ロケ弁の女王』の原作者から「ロケ弁を軸にやってみませんか?」と提案されて、それは面白いと感じた。

世間にとって、ロケ弁という単語は、テレビで聞いたことがあるが、実際にどういうものなのかはよくわからない。だが、「どこの店のロケ弁が美味しい」みたいな話を芸能人が熱っぽく話していたりするので、奥が深い世界であることは知っている。読者の興味の入り口としては、ちょうどいいのでないか。

そして、原作者から詳しく話を聞くと、ロケ弁は制作現場の雰囲気を左右する存在として、かなり重要な役割を担っていることを知った。番組制作会社の新人にとって、「どのタレントが、どこのロケ弁が好きなのか」を覚えることから始まるらしい。

食によって、チームの空気や関係性を変えていく。
それがロケ弁なのだ。

加えて、ロケ弁において重要なのは「場づくり」だ。近年、孤食が社会問題になっているが、誰とどのように食べるかで、食事の意味合いは全く変わってくる。ロケ弁を手配して終わるのではなく、チームのみんなにロケ弁を楽しんでもらい、気持ちをほぐしていくにはどうすればいいのか。

また、この作品の特徴のひとつは、実際に存在するロケ弁のお弁当屋さんが多数登場することだ。『神の雫』のロケ弁版と思ってもらうといいかもしれない。作品を読んで、「このお弁当、本当においしそうだな」と思って、お弁当を発注する読者が増えていく。そんな未来を目指している。

そのため、お弁当の作画にはかなり力を入れている。実際、実にシズル感のある美味しそうな仕上がりになっている。モノクロのマンガでは、こうは見せられず、オールカラーであるWEBTOONならではの強みだと感じる。

チーム全体のことまで考えて、食と向き合い、悪戦苦闘していく主人公。その姿を描くことは、現代的な学びがあると感じている。

今回のnoteを読んで、作品に少しでも興味をもった人は、『ロケ弁の女王』を是非読んでみてほしい。

▼『ロケ弁の女王』はこちらから


今週も読んでくれて、ありがとう!この先の有料部分では「最近読んだ本などの感想」と「僕の日記」をシェア。

また、ぼくがどのようにして編集者としての考え方を身につけていったのかを連載形式でシェアしていきます。コルク社内の中堅社員にインタビューをしてもらってまとめた文章を有料部分で公開します。

読者の声を聞く

作品が面白いかどうかは読者が決めることだ。自分の意見を持ってそれを信じることも大切だが、読者の声とズレていたら、芸術ではなく、商品として世に出しているのだから、修正をしていく必要がある。

編集者は、読者の声を、作者が理解できるように翻訳するのも大切な仕事だ。

『ドラゴン桜』も読者の声を聴きながら進めた作品だ。最初の構想では、廃校寸前の高校を再建するために東大100人合格を目指す「学園モノ」の漫画だった。しかし、東大合格への具体的な方法を知りたいというハガキがたくさん来た。

実際に第5話で、三田さんから、それまでの「学園モノ」のようにケンカするシーンも上がってきた。その時に、先輩編集者と僕で修正を提案しにいった。

「こういう感じよりも、『東大行くなら理1を狙え!』とか、具体的な情報入れませんか?」と。実際、その回の読者アンケートの反応がすごくよくて、路線が決まっていった。

これをきっかけに、「学園モノ」から「勉強モノ」へ大きく方向を変えた。
世間の反応に敏感で、ストーリーを変えることをためらわないのは、三田さんのすごいところだ。

こうした体験もあり、読者アンケートを読み込むことは欠かさずやっていたが、だんだんとハガキによるアンケートシステム自体を疑うようになってきた。

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表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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